風の向くまま

〜Oz's Leaves管理人のブログ〜
怪異と身体の民俗学
マンガ/読書
「怪異と身体の民俗学」―異界から出産と子育てを問い直す― 安井真奈美 せりか書房

たまたま図書館の新刊コーナーにありふと手に取った。ものすごい取り合わせだし、内容も散漫に見えるほど多岐に渡っていたのだが、意外と面白かった。

第1〜3章は妊婦が亡くなった時に腹を開いて胎児を取り出し別々に埋葬す胎児分離という風習、お産の死亡率が下がっていくにつれてそれが水子供養に変遷していく過程、また胞衣の取り扱いなど、お産に関わる数々の民俗学者のレポートや、産女伝承、子育て幽霊伝承などを紹介しながら、著者の考察が述べられている。
第4章は乳歯の取り扱い。昔は縁の下や空に投げていたものだが、今は豪華な容器に入れて取っておくようになっている。
第5章はおんぶと抱っこに関する考察。子供が生まれてもそれを背負って畑仕事などを続けねばならなかった時代から、作業から解放されて抱っこに変遷してきた過程を考察する。
第6章は分娩台についての考察。物理的に考察をすると仰臥はお産には最も不向きな恰好のはずなのだが、医師側の利便性を追求してできた分娩台が、すっかり普通になってしまった過程を追う。
第7、8章は、国際日本文化研究センターの怪異・妖怪伝承データベースから、手、目といった身体の部位を示す言葉を検索して、怪異と近しいと考えられている部位がどこかという分析。そして背中の特異性について述べられている。背中は魂が抜ける場所だったり恐怖を感じる場所だったり。実際に触感についても手や足に比べて鈍く、顔と背中は自分では見られないが他社に晒されている特異な場所であるという記述には、おおっと思わされた。
第9章は著者が学生たちにオリジナル妖怪を作らせてみて、それがどのように変異していったかということ。これが結構面白くて、造られる妖怪が4パターンになる。
1)身近に起こる不思議な現象をとらえたもの(部屋の隅から見ている妖怪とか)
2)コントロールできない自分を妖怪のせいにするパターン(妖怪爆睡魔)
3)モラル違反を妖怪になぞらえる(コソ泥爺など)
4)世直し太郎、のような世直しの期待を込めたもの
で、2のタイプが徐々に増えてきているそうだ。
公園で遊ぶ母と子を妖怪に見立てて「うざい」と名付けた学生がいたり、プリキュアの敵が「ウザイナー」という名前だったことを取り上げ、一つ目小僧のように見た目がどうかではなく、それを見た時の感じる感情をそのまま名前にするというのはかなり暴力的だ、という記述もなるほどと思った。
あとがきではパラオの母系親族集団による子育てについて少し触れられている。父親は自分の子供と同様に姉妹の子供をかわいがるという話。(この本では語られていないが、これは遺伝学的にも納得できるもので、自分の子供は自分の因子の半分を100%持っている。兄弟の中に自分と同じ因子が入る確率は50%、甥や姪は25%になる)。母系親族集団で共同育児のような助け合いの育児が行われてきたが、そこにフィリピンからベビーシッターが入ってきたことでそれが崩れた。若いものに育児を手伝わせようとすると、対価を要求するようになったからで、貨幣が人間関係を変化させてしまった。

基本的には論文なので、感情や善悪は見事に排されていて読みやすかった。こんなことを一生懸命調べまくっている人がいることも、自分がこの本を手に取った、という事実も興味深い。人は人をとても知りたがっているが、簡単に「これ」と答えがでるようなものではないということなんだろう。
|2015.03.29 Sunday |
| /PAGES |
CATEGORIES
LATEST ENTRIES
| /PAGES |
LINKS